羽化時の日照時間で
翅の色が変わるベニシジミ
No64(2004年04月掲載)
 春の野原を歩いているとハルジオン・タンポポなどの花の上で、吸蜜している小型の美しいベニシジミという蝶に会える。開いたシジミ貝に形が似ているところから名付けられたシジミチョウ科に属している。日本では、北海道から沖縄まで分布し、初春から秋遅くまで、川原や畑の周辺などの地表近くを、忙しそうに飛び回る姿を観察できる。
 4枚の翅のうち、前翅は裏表とも橙赤色紋が鮮やかで、後翅は表面が橙赤色紋、裏面が灰色だ。ベニ色よりもオレンジ色が目立つ。日本では3月上旬ごろから秋まで、1年間に4〜6回発生を繰り返し、その時点の気候により、翅の色が変化する。光周期に左右されるようで、羽化する時の日照時間が13時間以下だと赤が鮮やかな「春型」に、14時間以上だと赤い色が黒ずんだ「夏型」になる。だから、秋が進み、日照時間が少なくなると「春型」が発生する。10月〜11月には、「春型」と「夏型」が混ざって飛んでいる姿が観察できる。ただ、北海道や本州の高地で羽化した「夏型」は、あまり黒化しないのだが、温度との関連性は明らかにされていない。
 ベニシジミは草原性の蝶で、草花の咲く明るい草地で、やや湿った所に生息する。ベニシジミの幼虫はヒメスイバ、スイバ、ノダイオウ、ギシギシ、エゾギシギシの5種に食草が限られ、その葉の裏に小さなまんじゅう型で灰白色の卵が産み付けられる。孵化してスグの一齢や二齢の幼虫では、葉の裏側の表面だけを溝を掘るようにように食べ進む。特徴的な線状で窓状の薄い膜の食痕が残るので、葉の裏を探してみよう。冬でも陽が当たる、暖かい田畑の畔(あぜ)で、食べて成長していく。幼虫には全体が緑色の型の他、緑色に紅色の側線や背線を持った型も見られる。三齢以降は葉に孔をあけたり、葉の周辺から食べることもある。孵化して16〜20日で灰褐色の蛹になる。落ち葉の下や土の割れ目、小石の影で蛹化することが多く、約7〜10日で羽化する。
 成虫になると、各種の花を訪れ吸蜜する。春はアブラナ、ネギ、タンポポ、ハルジオン、レンゲ、クサイチゴなど、夏はヒメジョン、シロツメクサ、セリ、オミナエシなど、秋はソバ、ゲンノショウコなどと多様。時には、クリやアカメガシワのような本木の花を訪れることもある。ミカンの外皮から吸汁する例も知られている。
 翅の長さ2センチ足らずの小型蝶だが、オスのなわばり行動は顕著だ。同種だけでなく、モンシロチョウやアゲハチョウでも、なわばりに、はばたいて入ってくるものがあれば、オスがはげしく追う。敏速な飛び方をするが、長距離を飛ぶことはなく、飛び立ってもすぐ近くにとまる。蜜を吸っていたり、休んでいる時は、翅を半開きにしていることが多い。夜間は下向きにとまり、触角を前に突出し、翅は閉じる。