東洋でも西洋でも
神聖視されているヤドリギ
No63(2004年03月掲載)
 ケヤキやエノキ、サクラなどの落葉広葉樹が葉を落とす秋から冬にかけて、その梢(こずえ)を見上げると、緑の枝や葉がからまった大きなかたまりが目に付くことがある。一見、鳥の巣のように見えるが、よく調べるとヤドリギの場合が多い。ヤドリギは「宿木」とも「寄生木」とも日本語表記され、その名の通り、樹木の幹に寄生して成長する常緑低木だ。
 ヤドリギは葉緑素を持っているので、光合成を行えるが、取りついた寄主(きしゅ)に伸ばした寄生根から、水分や無機塩類などを吸収する。このような形は、半寄生植物と呼ばれている。もっとも、寄生されて養分を吸取られた、寄主の枝は、その部分から先が枯れることもある。
 茎は緑色で二又か三又に枝分かれし、毎年一節ずつ成長、高さ30〜80センチ、直径50〜60センチにも達する。ヤドリギの茎がからまった姿が、鳥の巣や杉玉と見間違がえる。先端の節に二枚の葉が対生する。日本で見かけることのできるヤドリギ科は、五属六種が知られているが、ヤドリギはヤドリギ属で一種のみ。北海道、本州、四国、九州に広く分布し、朝鮮半島や中国北東部でも確認されている。
 寄主が葉を落としても、青々としている事から、神が宿る依代(よりしろ)として、古代から神聖視されていた。ホヨ(寄生)、ホヤなどの古名を持つ。
 大友家持には次の万葉歌がある。
あしひきの山の木末(こぬれ)の 寄生(ほよ)取りて 挿頭(かざ)しつらくは 千年寿(ちとせほ)くとそ
 ヤドリギ科は、世界では40属1400種を数える。古代ヨーロッパでは夏至や冬至の日、聖職者がヤドリギを金の鎌で採取し、祭壇に供えるのが習わしだった。現在でも。フランスやイギリスには、クリスマスにヤドリギのリースを飾り、その枝の下では女性にキスをするのが許されるという習慣が残る。だから花言葉はイギリスでは「私にキスしてください」、フランスでは「危険な関係」。日本の花屋でも、花材としてヤドリギが並ぶようになった。
 2〜3月、黄色く小さな花を咲かせ、やがて純白の綿毛が密集した、鮮緑色の実をつける。ヤドリギの実の果実は、トリモチに用いられたほど、粘着力がある。ついばんだ鳥が飲み込めずに他の木の肌に擦り付けたり、飲み込めたとしても未消化のまま、おしりから数珠玉のように種をつらねた、1メートルにもなるヒモ状の糞をし、新たな寄主の樹木に分布させる。やがて、種が発芽すると寄生根を、寄主の樹木にくさび状に侵入させ、養分を吸収する。ヤドリギの果実は、木の根元に落ちているので、ひろってサクラやエノキの枝につけると、この寄生の様子が観察できる。