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マガモのオス
No62(2004年02月掲載)
 マガモは冬鳥として、シベリアなどの北方から、日本全国各地に飛来する。北海道や本州の山地などで、少ない数だが、繁殖することもあるが、越冬地でペアリングし、その相手と一緒に北へ戻り、そちらで産卵する。カップリングは抱卵期までの一シーズン限りだ。カモ類では一番多く、湖沼、池、河川や海岸などでよく見かける。水に沈まないのは尾腺から、脂を出して羽にこすりつけ、浮力を保つことができるから。海水を飲んでも、鼻腺から余分な塩分を出すことができる。全長60センチ位まで育ち、「グェッ、グェッ」、「グァ」という鳴声に特徴がある。ユーラシア大陸、北アメリカ大陸の北部が繁殖地で、両大陸南部やアフリカ大陸北部、東南アジアなどで越冬する。
「いいカモにされた。」、「カモがネギをしょってくる。」など、慣用句にも登場するほど、日本では古くから食材として重用されていた。食肉や卵を取るために、マガモを飼い馴らし家禽化したのがアヒルだ。2千年前には、すでにマガモを飼い始めていたようだ。最近は野生のカモとアヒルを掛け合わせたアイガモの食肉も、スーパーなどに並ぶようになった。
 冬にマガモを見かけた人は、綺麗な羽と地味な褐色の羽の2種類の鳥が並んで泳いでいる様な印象を持っているかも知れないが、美しく見える方がオスのマガモだ。頭は緑色の光沢を持った暗緑色で、首に白く細いリングを持ち、体はほぼダークシルバーで、胸はブドウ色、尾は白いが中央部分だけが黒い。地味な方がメスで、全身が褐色で、黒褐色の斑がある。
 もっとも、オスがファッショナブルに着飾るのは冬だけ。日本に渡って来た時は、オスメス見分けのつかないほど、どちらも地味な色をしている。くちばしの色がオスが黄緑色なのに対し、メスが橙赤色なので、ようやく見分けることができる。オスはペアリングの相手を探すために、目立つ必要があるので、美しい羽の色をまとうのだ。この羽の色は婚姻色と呼ばれ、目立つ必要がない季節は、天敵に見つかりにくい、地味な色でカモフラージュする。これはエクリプス(換羽)と呼ばれ、サギやオシドリ、カイツブリやユリカモメなどにも見られる。
 雑食性で、水草の葉、茎、種子などの植物が主体だ。越冬地の日本では、狩猟から逃れるため、夜行動する。夜も視力は良い。
 最近注目されているのが「マガモ農法」。マガモやアイガモのヒナを水田で放し飼いにして、虫や雑草などを食べてもらい、農薬の使用を軽減しようとする試みだ。苗が育ってから、小さなヒナを入れるので、稲が荒らされる心配は不要。水田を泳ぎまわることにより、水中に酸素が取り込まれ、養分が稲に吸収される。その排泄物も水に溶けて、肥料としてお米に吸収される。豊臣秀吉が「マガモ農法」を薦めたという記録もあるそうだ。