花粉に止血成分を
含んでいるガマ
No61(2004年01月掲載)
 北風が雪を運ぶようになる頃、それまで緑がおおっていた池沼周辺の湿地帯に、ソーセージのような形をした茶色の穂綿を見つけることができる。「古事記」に収録されている、「因幡の白兎」に出てくるガマの穂だ。サメをだまそうとした白兎が、気づかれて毛をむしられて苦しんでいる所を、大国主の命にガマの穂を使って治療してもらう話だ。サメではなく、兎をいじめたのは熱帯アジアに生息するワニだと覚えている人もいるかも知れない。昔から、山陰や中国地方では、サメのことをワニと呼んで食用にしていたから、混同が生じた。
 漢方では、ガマの穂を蒲黄(ほおう)と呼び、外用としては収れん性止血剤に、内用としては利尿薬に用いていた。止血効果のあるのは、穂綿の中にある黄色の花粉で、有効成分は主にシトステロールであると、科学的に確認されている。花粉は四個が固く結合したもので、四集粒といい、昔は炒って食べたりしていた。夏、雄花穂が熟するころ刈り取り、紙袋などに入れて軽くたたくと花粉がとれる。この花粉を天日干しにして、漢方に用いた。下血や吐血などの止血には、服用することもあった。
 ガマは北半球温帯に広く見られる多年草で、日当たりのよい川岸や沼、池に群生し、泥の中に長く地下茎を伸して繁殖する。葉は綿形で、葉質はやや厚くて柔らかく、草丈は1〜2メートルに達し、葉や茎も食用にしていた。特に、根の澱粉は良質で消化が良いので、老人や幼児の風邪、下痢などに蜂蜜や砂糖を加え、熱湯で練り上げて食べさせていた。
 葉の基部は鞘(さや)状で茎を包み込んでいる。やがて葉より茎が伸びてきて、その先端に肉穂花序(花弁の無い微小な花が多数集り棍棒状になること)を生じる。夏のガマの穂は、細くて緑色である。ガマの穂は雌花(緑褐色)の上に、雄花(黄色)が連なり、雌花は一本の雌しべの基部に20〜30個の冠毛を持つ。雄花は雄しべ2〜3本と少数の毛からなっている。花期は6月〜7月。
 雄花はたくさんの花粉を出し、受粉が終わると雄花は落下し、穂軸のみが残る。10月〜11月、雌花はビロード状のソーセージ形をしたガマの穂になり、果実が熟すと表面は茶褐色になる。
 種子は白色の冠毛のついた堅果状で、長さ約1ミリ〜2ミリ、幅○・3ミリ。花穂の上部から次々と風によって飛散する。
 ガマにはミスクサという別名もある。ミスとは簾(すだれ)のことで、乾燥した茎で簾を作っていたからだ。葉も日よけやムシロを編むのに用いられていた。
 仲間にはヒメガマとコガマがある。ヒメガマは5月〜7月に咲き、雄花と雌花が3〜6センチ離れているのが特徴だ。コガマは7月〜8月に咲き、雄花と雌花は接している。ガマの葉が幅が約2センチなのに対し約半分の幅1センチ。