可憐なムラサキシキブが
チークの仲間
No58(2003年10月掲載)
   秋枯れの山野に、3〜4ミリの美しい薄紫の果実を実らせるムラサキシキブ。北海道から本州、四国、九州の丘陵や山地に広く分布し、樹高2〜3メートルに達する落葉低木だ。奈良公園や近郊の山でも見つけることができる。クマツヅラ科に属し、その仲間には硬質木材の代表格、チークも含まれる。ムラサキシキブの細い幹も、真直ぐに伸びて強靱なので、ノミや金づちなどの道具の柄や、杖の素材として重用されている。古火縄銃の時代には、銃身掃除や弾込めの用具に使用されていた。学名はCallicarpa japonica、日本の美しい実と言う意味だ。小米(コゴメ)、小米桜、実紫、山紫、玉紫などの別名を持つ。もちろん、「源氏物語」の作家として知られる平安時代の女流作家、紫式部から和名が付けられ、花言葉も聡明。古くは紫敷実(ムラサキシキミ)と呼ばれていたのが由来となったとする説もある。
 6〜7月、小枝に対生した葉の付け根(葉腋)から細い花硬が一本出て、その先がさらに細かに枝分かれし、小さい花を多数咲かせる。薄紫色の花弁と黄色の雄しべが美しい調和を見せる可憐な花で、ほのかな香気も漂わせるが、葉に隠れ、見過ごされる事が多い。その実の美しさから、庭木として植えられる事も多い。鉢植えとしても売られているが、同属のコムラサキと混同されている場合がある。コムラサキはやや小ぢんまりとした形で、実の数が多い。植えた翌年、コムラサキは実を付けるのに対し、ムラサキシキブは3年程必要だ。さらに、コムラサキが葉の付け根から2〜3ミリ離れた所から花硬を伸す事でも見分けられる。ムラサキシキブが葉の全周が鋸葉(ギザギザの形)のに対し、コムラサキが先半分に限られる事でも見分けられる。
 最初は薄い緑色だった実も、秋に向けて美しい薄紫に変わる。秋も深まると葉が落ちてしまうが、実はさらに熟して、紫色を深め、冬の日差しに輝く。やがて実は小鳥についばまれ、種子を散布させる。ムラサキシキブは秋の花材としても、喜ばれている。ムラサキシキブ属は世界に約40種あり、その内の10種位が日本に自生している。よく知られている仲間には、白い実を付けるシロシキブや、葉が大きくビロードのような短毛が生えているヤブムラサキがある。
 種から繁殖させるなら、採取してすぐか、乾かないように保存して3月に撒く。株分けで繁殖させるなら、厳寒期を避けて12月上旬から3月中旬に。西日を避けた戸外の直射日光下を好む。多少の日陰は大丈夫。耐暑性、耐寒性には強いが、水切れは厳禁なので、土の表面が乾けば水を与えるように。鉢植えの場合は、根詰まりしやすいので、毎年植え替えを。その時、新しく伸びた枝の基部2、3節を残して剪定する。コムラサキは、高さ20〜30センチまで刈り込んでもよい。