食用に傷治療に
重宝されたユキノシタ
No55(2003年07月掲載)
  本州、四国、九州、中国地方の、日当たりのあまり良くない場所に成育しているユキノシタ。山の湿った岩や沢、庭の石垣に、ピンクの斑紋と二枚の白く長い花弁が特徴的な花を見つけることができる。まるで、おとぎの国の昆虫が飛んでいるような姿だが、花弁は五枚で下の二枚が細長く大きく羽のように見え、上の三枚は小さく薄紅色の約3ミリ程のハート型で、濃い赤紫の黄色の斑点の模様が入っている。花の形が似ているものに、山地で秋に咲くダイモンジソウがある。 
 ユキノシタの名前の由来は、白い花の下に葉が見え隠れする様が、雪を連想させるからとも、冬になって雪が積もっても葉が枯れずに残っているからとも言われている。
 茎は短く、長い葉柄の先に地表をはうように多肉質の葉を叢生(そうせい)させ、春には次々と走出枝(ストロン)を出し、その先端から新しい芽を出し、イチゴのように株を増やす。腎臓の形に似た葉は、ヘリがごく浅く裂け、縁はノコギリの刃のようにギザギザになっている。葉の表面は黒っぽい緑色で、葉の表面に葉脈の模様が白く浮き出ている。これは葉の各細胞の間隔に空気が含まれてできた斑(ふ)があるためだ。
 初夏の頃、高さ20〜50センチの花柄が直立し、多数の白い花がややまばらな円すい状の集散花序となって付く。花は無臭で、常に横向きに咲く。
ユキノシタには雄性期と雌性期があり、雄しべと雌しべの形が異なる。雄性期には花弁とほぼ平行に並んでいる十本の雄しべが、成熟すると順番に前屈し、葯(やく)から花粉を出す。密を吸いに来た昆虫に花粉がつくと空になった葯は落ち、その雄しべは元の位置に戻る。十本の雄しべが順に前屈して花粉を出す様子を観察してみよう。すべての雄しべが花粉を出し終わると、今度は雌性期に入り、雄しべが雄しべのあった所まで伸び、昆虫から花粉を受け取る。
 園芸店でも鉢植えで売られているが、走出枝の先の子株を移植しても、容易に定着する。日陰で水はけの良い場所を選び、鹿沼土をプラスすると良い。肥料を与え過ぎないのがコツだ。
 天ぷらにして味わう時は、葉をよく洗って水気を取り、裏面だけに薄めの衣を付け、低温で揚げるとおいしい。また、やわらかな葉を熱湯で塩ゆでし、水にさらしてから細かく切ると、酢みそ和え、からし和え、ゴマ和えでおいしくいただける。
 民間療法でも、生葉を塩でもんで出た汁を、かぶれやはれ物の湿布、中耳炎や痔の薬として用いていた。食用として、応急処置のキズ薬として役立つので、旧家や農家には、ユキノシタを移植されていた家も多く、今でも日陰の石垣などに見かけるのは、そのなごりだ。葉の形が虎の耳に似ているところから、漢方名は「虎耳草」(とらじそう)と呼ばれ、葉または全草を乾燥させ、解熱や解毒、子どものヒキツケなどに煎じて用いている。