手軽にベランダで
可憐なスイレンの花を
No54(2003年06月掲載)
 「スイレンってどんな花。」と聞かれたとしても、モネの絵などを思い浮かべ、容易にイメージを結ぶことができる。しかし、レンコンを栽培するハスとの違いなどを質問されると、ほとんどの方は戸惑ってしまうにちがいない。日本に自生している唯一のスイレン属は、かわいい白色やピンクの花を8月に咲かせるヒツジグサだけである。一般に見るスイレンは、大正時代以降に輸入された、多様な色と形の花を持つ園芸種を含むもので、スイレンと総称されるようになった。
 単純には、スイレンの花は水面で咲き、浮き葉(水面に浮いた葉)のみ。一方、ハスは浮き葉と立ち葉(水面から茎で持ち上がった葉)があり、花も水面より高く上がり咲くのが特長だ。熱帯種のスイレンのなかには、花や葉を水面より高くもたげるものもあるが、ハスほどの高さはない。一番の差違は、ハスの葉の表面は撥水性があり、水をかけると水玉状になるが、スイレンの葉は撥水性を持たない。欧州ではハスとスイレンを総称してロータスと呼ぶが、アメリカではハスをロータス、スイレンをウォーターリリーと呼んで区別している。
 和名のヒツジグサは、未の刻(だいたい午後2時頃)になると咲くところから名付けられた。実際は明るくなると開き始め、昼前に満開、午後になると閉じ始める。この周期を3日間繰り返して、花の命を終える。この開いたり閉じたりの習性が眠るように見えたので、睡蓮の別名も付けられた。
 スイレンは古代エジプトでは神聖視され「ナイルの花嫁」として崇拝を受けていた。学名の「ニンファエア」はギリシャ神話の女神ニンフに由来し、世界各地の熱帯、亜熱帯、温帯に約40種の仲間を持つ。園芸種のスイレンは、屋外で日本の冬を越せる温帯種(耐寒性)と、室内でしか冬を越せない熱帯種に分類できる。温帯種には比較的小輪の姫スイレンがある。熱帯種は昼咲く種類と夜咲く種類に分けられ、強い芳香を放つのが特長だ。夜に開花する種類は、ヨーロッパの夜会を彩るのに重宝されたそうだ。
 耐寒性スイレンなら、光のあたるベランダでも、容易に花を咲かせることができ、直径40センチ位の花ハス用の鉢も売られている。プラスチックの洋服ケースでも代用可能だ。鉢に植えられたスイレンをそのままケースに入れて、水を張る。ボウフラ防止にメダカを一緒に飼うのもアイディア。半透明のケースなら、より深く生物観察が楽しめる。6月に準備すれば、夏を通して変化が楽しめる。冬になると茎と根だけの状態となって土中で休眠して越冬し、春先になると再び芽を出す。熱帯種は15度以上の気温と水深30センチ以上の水槽が必要で、枯らしてしまうことも多い。熱帯魚の水槽や調光・保温装置を用いて育てるが、低光量でも育つ夜咲く種類の方が比較的容易に育てられる。