紫の大型の花が春の
盛りを告げるモクレン
No53(2003年05月掲載)
 4月下旬から5月上旬にかけて、紫色の大型花を葉に先だって咲かせるモクレン。高さ2〜4メートルの落葉花木で、北海道から沖縄まで、日本全国に分布する。幹には主幹がなく、株立ち状に何本か出る枝先に花が付くので、庭木として植えられたものが、塀越しに見える。花の形が蓮に似ているので、蓮のような花を咲かせる樹という意味で、木蓮と名付けられた。モクレン科の仲間で、白い花を咲かせるハクモクレンと区別するために、シモクレン(紫木蓮)と呼ばれることもある。モクラン(木蘭)、モクレンゲ(木蓮花・木蓮華)などの別名も用いられる。
 日本にはモクレン科の植物にはモクレン属とオガタマノキの2属あり、他にはゴブシ、タムシバ、ホオノキ、オオヤマレンゲ、シデコブシなど、約8種が見られ、いずれも香り高い美しい花を咲かせ、本格的な春の到来を告げる。花ことばは「崇敬」。花弁は6枚、雄しべ、雌しべが数多く付き、花が終わると褐色の袋果がたくさんできコブシ状になる。袋果が裂開すると、赤い外種皮を持つ種子が白い糸で花託からぶら下がる。
 中国中部原産で、古くから知られ、「延喜式」「本草和名」「和漢三才図会」などにも名前をつらねている。モクレン科の学名は植物学者の名前を取ってMagnolia(マグノリア)と名付けられている。ちなみに、モクレンの学名は、ゆりの花のようなマグノリアという意味のMagnolia liliflora。同じモクレン科のコブシは日本名を取入れてMagnolia kobusと命名されている。日本ではモクレンの園芸品種は開発されなかったが、欧米では園芸品種としての交配が盛んだ。ヨーロッパでは約150年前に、モクレンとハクモクレンの交配、さらに、その子孫の交配も試みられ、ツバキ類、ツツジ類と並ぶ、三大花木として重用されている。アメリカではシモクレンとシデコブシを交配、ガール・マグノリアとして、アン、ベティーなど、女性の名前を付けた品種が多数作りだされ、庭木としてもてはやされている。
 花粉分析によれば、1億年以上も前から、地球上に存在していたようだ。花木としては最古で、花には芳香があり、草食恐竜の好物だったかも知れない。日本でも中部地方の200〜500万年前の地層から、シデコブシの化石が発見されている。
 漢方では「辛夷」としてモクレンのつぼみを、鼻づまりや蓄膿症、慢性鼻炎による頭痛を治すのに用いられる。3000年ほど前の文献に、「鼻腔を洗浄する効果があるる」と記されている。日本では古来はコブシのつぼみを「辛夷」として代用してきたが、現在はより精油含量の多いタムシバやハクモクレンのつぼみを鎮痛、鎮静、消炎薬としても用いている。仲間のホオノキは、その葉をホオ葉味噌やホオ葉寿司などで用いる。