「園芸品種として親しまれてきた
ヤブツバキ
No50(2003年03月掲載)
 本州から四国、九州の海岸線に添って、標高5〜600メートル以下の山野に自生するツバキ、その葉質が厚く、艶が有るところから「照葉樹林の女王」とも呼ばれている。私たちの見慣れているのはヤブツバキ、日本海側の山地の多雪地帯に自生するユキツバキと棲み分けている。ユキツバキは、積雪の重みに耐えるため、枝が低くはっているのが特徴だ。ヤブツバキの幹は直立し、高さ10〜15メートルにも達する。
 古事記には「都婆岐」、日本書紀には「海石榴」の字で表現され、万葉集にも椿を呼んだ歌が収められている。集った若い男女が恋の歌を交わしあう「歌垣」で知られている山の辺の道の海石榴市も、三輪山の麓に多くの椿が自生し、そこで市が開かれことによる地名だ。中国で「椿」の名で呼ばれているのは「ちゃんちん」(センダン科)という木。ツバキの漢名は「山茶花」で、いつの時代かに取り違えられたようだ。ヤブツバキの若い枝は太くて無毛だが、日本のサザンカは細くて有毛だ。 
 学名はカメリア ジャポニカ、18世紀中頃に、チェコスロバキアの宣教師カメリアによって、東洋から欧州にもたらされ、リンネによって命名された。
 室町時代から、人工交配によって園芸品種が数多く作りだされ、ユキツバキとの雑種も含めると約2000種に近い。人工交配は蕾(つぼみ)受粉で行われる。開花前日のふくらんだ蕾を切開し、柱頭に交配目的の花粉を付けて袋かけをして、7〜10日後の結実を待つ。
 奈良で椿の名木として知られるのが、樹齢400年と伝えられる「白毫寺 五色椿」だ。寛永年間に興福寺塔頭、喜多院から移植され、根元から80センチで幹が二分し、樹高は5メートルに達する。一本の樹に、赤色、白色、紅白絞りなど、五色の花が咲き競う。
 開山堂の基壇脇に、開祖 良弁が植えられたと伝えられる「東大寺開山堂 糊こぼし椿」も有名だ。紅の花に白い斑(ふ)が入ってる様が、東大寺 修二会で、練行衆が作る椿の造花に糊跡が点々と付いているようだと「糊こぼし」の名が生れた。和菓子、土鈴や絵馬となって親しまれている。開山堂は12月16日以外は非公開。隣の四月堂から垣間見ることが出来る。
 2月〜4月末まで、次々と花を咲かせ、9〜10月になると実が熟す。種子に穴を開け、中の子房をほぐして取りだすと、くちびるにあてて吹くと鳴るツバキ笛ができる。種子を蒸して絞った椿油は、最良質の不乾性油として、天ぷら油、整髪料や肌荒れの予防に使われる。さらに、朱肉、防錆油、燈油、機械油にと、用途は広く、油かすも肥料として有用だ。
 木質も堅く、ち密で重く、均質で粘りがあり、磨くと光沢が出ることから、楽器、食器、木魚、ソロバン玉、将棋の駒などに使われる。椿材の木炭は「火つき良く、火の粉が飛ばず、火もちよく、熱おだやかな椿炭」として茶道でも最高級とされている。