「手紙や占いにも使える
タラヨウの葉
No50(2003年02月掲載)
 社寺の境内で、赤い実を房のようにつけ、冬でも大きな楕円の葉を付けている木があったら、それはタラヨウ(多羅葉)かも知れない。タラヨウはモチノキ科に属する常緑高木で、高さ10〜20メートルにも達し、本州(静岡以西)、四国、九州、中国南部の山地の常緑樹林内に分布する。庭木や社寺に植えられていることもあり、監修の谷先生は、奈良市の東大寺・二月堂や正暦寺、下市町の丹生神社で確認されている。
 昔、インドでは紙の代わりに、仏教の聖木でもある、タラキ(多羅樹・ヤシ科のタリポットヤシ)の葉裏にお経を写していた。タラヨウも同様に、葉の裏を細い棒でひっかくと変色して浮き上がり、文字を書くことができる。タラヨウにはジカキシバ、エカキシバなどの方言名があり、約500年前の戦国時代には、日本でも紙の代用品として便りやメモを書くのに用いられていた。
 葉に書くので、現在のハガキの語源では、という説もあるが、昔は1枚の紙に書かれた命令書などを「端書」と呼んでいたのがハガキになったようだ。1996年には「郵便局の木」に制定され、奈良中央局にもシンボルツリーとして植樹されている。案外知られていないが、木の葉でも、切手を貼れば、そのまま郵便物として差し出すことができる。
 細い棒でひっかいた箇所が変色するのは、化学変化を引き起こしているからだ。皮を剥いたリンゴやレンコンを、そのまま放置すると黒ずむのと同じで、刺激に対してストレス反応を起こしたのだ。細い棒を押し付けて圧力をかけることにより、生物ラジカル(スーパーオキシド)が葉の内部に発生し、それが葉にあるクロロゲン酸という抗酸化物質に作用し、褐色変化を起こして、字として浮かびあがるのだ。
 圧力だけではなく、熱に対しても反応する。葉の裏を火であぶると輪状の斑点が浮き出るので「モンツキシバ」と呼ぶ地方もある。この輪の模様は、円紋とか死環と呼ばれているが、タラヨウの属するモチノキ科は、円紋ができやすい。また、社寺にタラヨウが多く植えられているのは、浮き出る模様を使って、吉凶を占ったからだとも言われている。大津の日吉神社のように、お宮の入り口にタラヨウの葉が用意してあり、そこに願文を書いて神前に供える神社もある。
 4月から6月、黄円錐(えんすい)花序に緑色の小さな花を多数群生させる。雌雄異株なので、雄花には完全な雄しべと退化した雌しべがある。一方、雌花は半球型の雌しべと退化した雄しべが4個ある。11月には、直径8ミリ程の赤色の実が熟す。鳥の一番の好物で、冬の間に、ほとんど食べ尽くされる。タラヨウの樹皮からは鳥もちがとれ、葉は茶の代用として用いられていた。