「雪の下でも赤い
実を結ぶヒヨドリジョウゴ
No47(2002年11月掲載)
 秋も深まる頃、山道を歩いていると、赤い小さな実を沢山つけたツルが、木々に絡みついているのを見かけることがある。最初、グリーンだった実が秋から冬にかけて真っ赤に熟し、葉が全部落ちてしまうので、直径8ミリ位の小さなプチトマトのような果実が、とても目立つようになる。それがヒヨドリジョウゴ(鵯上戸)。北海道から九州まで、全土に広く自生している。日当たりの良い斜面や林の端に見つけやすい。ナス科に属している多年草で、ひ弱そうなツルを数多く枝分かれさせ、春には古い茎から新しい枝を伸し、2〜4メートルにまで成長する。同じナス科のアマチャヅルと混同されやすい。冬枯れの道に赤い実をつける植物には、ほかにサルトリイバラやノイバラがある。
 ヒヨドリジョウゴは8〜9月に白い花を咲かせる。花は白い花弁を反り返らせ、茶色と黄色の花心の先に緑の雄しべを突き出している。実を持ち帰り鉢に植えると、ベランダでも育てられるが、花を咲かせることは出来ても、なかなか実を結ばせる事までは出来ない。育てるコツは、よく日に当てること、肥料をやり過ぎない事、開花中は雨に当てないこと、花を振動させ受粉させることなどがポイントだ。
 「本草和名」「大和本草」などの書物にも、保呂之(ホロシ)などの古名で記載されている。地方によっては鵯草(ヒヨドリソウ)、雪下紅(セッカコウ)、漆消(ウルシケシ)、ツヅラゴなどの呼び名がある。白い雪が際立たせる紅の実、というイメージが浮かぶ雪下紅という名も素敵だ。ヒヨドリジョウゴは、ヒヨドリなどが好むところから名付けられた。しかし、この実は有毒で、ニワトリでも食すると死ぬことがあると言われる。ヒヨドリもエサにするのではなく、目立つ赤い実とたわむれていたのだろう。その姿が酒に酔う様に見え、上戸と名付けられたのかも知れない。ヒヨドリジョウゴの赤い実には、ジャガイモの新芽にも含まれている、ソラニンという毒素を持っているのだ。もし、自宅に持ち帰ったら、小さい子どもが絶対に口に入れないように注意してほしい。誤食すると、吐き気、下痢、腹痛などを起こし、時には神経中枢のマヒにより死に至ることさえある。ナス科の仲間では、チョウセンアサガオ、ベラドンナも有毒植物だ。ちなみに、ジャガイモもナス科だ。
 もっとも、古くは白英(ハクエイ)と呼ばれ薬用に用いられていた。夏から秋にかけて、実を付けている全草を刈り取り、煎じて飲むと解熱、利尿、解毒の薬効があるといわれている。現在は、内服は不可。ただ、帯状疱疹(ヘルペス)の患部に付ける民間薬に用いられることがある。その場合も、果実、茎葉を酢漬けやアルコール漬けにして融解させ、患部につける。