「複雑な構造を
観察したいキツネノマゴ
No46(2002年10月掲載)
 本州から沖縄まで、道端や野原、空き地などで、ごく普通に見かけるキツネノマゴ。東アジアの温帯から熱帯に広く分布している。8月〜10月にかけ、3センチ程の太い穂状花序から、淡紅色の花がまばらに顔をのぞかせる。和名の由来は、この穂状の花序をキツネのしっぽに似ているから、花をその尾にまとわりつく孫ギツネの小さな顔に例えているとも言われるが、定かではない。しかし、そのイメージを持って花を観察してみると、なんとなくホノボノとした親しみが持てる。複雑な構造を持っているので、茎から葉、花までじっくりと観察し、スケッチにして各部の名前を覚えたい。
 茎は四角い柱状で、下の方は地面をはうように伸びているが、上部は斜めに立ち上がり、よく分枝しながら高さ10〜40センチに達する。茎には下向きに短毛が密生し、節の部分でややふくらんでいる。葉は長さ2〜5センチ、幅1〜2センチの長楕円形で、左右に対生している。萼(がく)に包まれるように顔をのぞかせる花冠は、人間の唇状で、上唇と下唇に分れ、上唇の内部には白い毛がはえている。一方、下唇は雄しべと雌しべを持ち、幅も4〜5ミリあり、白色に淡い紫色の斑紋を持っている。花冠には、異なった機能を持った4本の溝が刻まれている。下唇には3本の溝があり、中央の溝は花冠の基部まで達し、底には蜜がたまっている。左右の2本の溝には雄しべが1本づつ通っている。上唇にも先端近くに溝が1本あり、花柱を包み込むように、溝の左右の壁が中央で接している。
 ハナバチの仲間が蜜を集めに来たとき、雄しべの突起を押すと花粉が出て、雌しべが受粉する。果実の成熟は、約7ミリの萼に包まれた中で進む。果実の内部は左右二室に分れ、それぞれ上下2個づつ、ひとつの花で合計4個の種子が育つ。種子は長さ1・5ミリ、巾1・3ミリ、厚さ0・7ミリ程で、果皮が乾燥すると、一気に裂け、その反動で種子が放出される。
 花が咲く前の若葉なら、ゆでておひたしや和え物にするとおいしい。漢方でも爵床(しゃくじょう)と呼ばれて重用されている。中国では、清の時代に乾燥してから煎じ、洗眼用に用いられていた。そのなごりか、長崎地方では、「メグスリバナ」とも呼ばれている。浄血剤、解熱、せき止めなどの薬効が名高い。全草を花が咲いている夏に刈り取り、水洗いしてから天日乾燥し、約5〜10グラムを水300ccで煎じて服用する。別に、民間療法では、神経痛やリウマチ、筋肉痛などに、患部に生の茎や葉のしぼり汁を塗ることが知られている。手軽に試したいのなら、全草を布の袋に入れて、鍋で煮出して、入浴直前にお風呂に入れ、自然派の入浴剤として楽しむのも良いかも知れない。特に、体が冷えて関節が痛む方には効果があるといわれている。