「繁殖力が強く、
親しまれてきたカタバミ」
No45(2002年09月掲載)
 繁殖力が強く、日本全国はもちろん、世界中の温帯から熱帯まで、広く分布しているカタバミ。多年草で、5月から10月にかけて、庭や道端、空き地などで、直径8ミリ程の黄色い花を見つけることができる。雑草として見過ごされる事が多いが、近づいて観察すると、その花は可憐な表情をしている。葉はハート型で、先が虫に食われて欠けているように見えるところから、カタバミ(傍喰)の和名がついた。もっとも、辞書などではカタバミ(酢漿草)と記載されている。すっぱい草という意味だ。ホウレンソウの様に、葉にシュウ酸を多く含み、かむと酸味があり、食べると胆石ができるとも言われている。奈良公園のシカもカタバミは食さない。学名はオキザリスというが、やはりギリシャ語で「すっぱい」という意味だ。
 昔は、カタバミの葉をもんで、真ちゅうの仏具や銅鏡(金属の鏡)を磨くのに用いられ、ゼニミガキ、ミガキグサなどの方言名も付けられた。手あかのついた10円硬貨をカタバミの葉でこすって、手軽に試してみることもできる。江戸時代、爪を着色するおしゃれにも用いられた。ホウセンカの赤い花を砕き、ミョウバンか炭酸水素ナトリウムを加え、カタバミの葉をもみ合わせてできた薄茶色の液を、何度も塗り重ねて、爪に色付けをするマニキュアとして用いていたのだ。葉や茎のしぼり汁は殺菌力があるので、ダニなどの寄生性皮膚病に効果があるとされている。虫に刺された時も、かゆみなどの症状を緩和してくれる
 家紋の意匠としてもカタバミは好まれ、三百種類近い紋に使われ、その数は藤紋、木瓜紋に次いで多い。葉の形が好まれ、松平・酒井・成瀬の諸大名や、冷泉・入江・花山院の公家が使用したと言う。
 カタバミの葉にはハート型の小葉が三枚付く。葉は夜になると三枚の小葉が折り畳まれる。花は太陽の光が当たると開花し、四時間後には閉じてしまう。雨や曇りの日には花が開かない、上の写真のように、五つの花弁が平に咲いているのは1時間30分ほどだ。このように、1日(24時間)のうちに花が咲き、しぼんでしまう花は「一日花」と、呼ばれている。
 花柄は直立し、天に向かって開花するが、咲き終わると花柄は基部から下を向いて曲がってしまう。オクラのような形をした果実が熟してくると、花柄基部の曲がった部分はそのままで、がくの基部が曲って垂直に直立する。果実は約25ミリで、種子は一個ずつ液体を満たした外種皮という白い袋に納められている。果実の裂開とともに外種皮も裂け、液体とともに種子が飛び出す。液体は接着剤の役目を持ち、動物などに付着し、繁殖エリアを広げる。種子以外にも、地上をはっていく走出枝があり、この節から根を出し、やがて一個体として繁殖していく。