「夜空の花火のように咲くシシウド」
No44(2002年08月掲載)
 「独活」をウドと読める人は、よほどの漢字通。料理に用いられるウドのことだが、若い方の中には、味わったことの無い人も増えているかも知れない。シシウド(猪独活)は山地に生える多年草で、人間の背丈ほどに茎が育つ。ウコギ科に属するウドとは異なり、セリ科に属し、アクが強く、ウドの様に食することはできない。全体に細かい毛が生えていて、さわると甘い独特の香りを放つ。8月頃、茎頂に白色5弁の花を数多く咲かせる。その様を花火に例え、風情を楽しむ人も多い。この様な花の咲かせ方はセリ科の特徴の一つで、複合散形花序と呼ばれている。
 花茎をつけるまで4〜5年かかり、花が咲いて実を付けると枯死してしまう。古くから知られていた植物らしく「本草和名」や「大和本草」などにも、その名を見つけることができる。壮大な形をイノシシに例えてシシウドと名付けられたとも言われている。また、犬独活、馬独活などの別名を持つが、猪独活の様に人間の食用に不向きで、猪や犬、馬なら食べるだろう、という意味で名付けられた。
 もっとも、塩漬け保存してアクを抜き、越冬食料として用いられたこともある。春先の芽生えの頃から6月頃まで、葉がまだ展開していないまっすぐの葉軸を採取、葉身の部分は捨て、太い軸だけを、たっぷりの塩で漬ける。11月頃にはアクが抜けるので、少しずつ取出し、たっぷりの湯で塩を抜き、流水に2〜3時間さらし、生姜じょうゆ、炒め物、煮物としてあじわう。ごく若い葉軸なら、薄くそいで冷水にさらし、さらしウドのように、二杯酢やもろみをつけて味わえる。花は天ぷらにするとアクが抜けおいしい。
 漢方薬の世界では、シシウドの根は、独活(どつかつ)として、その鎮痛、鎮静、血管の拡張作用が認められている。また、リューマチ、神経痛、冷え性には、独活を木綿の袋に詰めて風呂に入れ、そのまま沸かし、薬湯に全身を浸すと血行を促進する効果がある。
 シシウドの学名はアンゲリカといい、ギリシャ語のアンゲリスコやラテン語のアンゲルスに相当し、「天使」の意味を持つ。やはり、その薬効が著しいので、天使に例えられて、名付けられた。シシウドの花期は10月初旬まで。背丈が高い上に、白い花が目立つので、見つけやすい。見かけたら、その姿に花火や天使を重ねてみよう。