「ハナショウブ、いずれが
アヤメかカキツバタ」
No42(2002年06月掲載)
 似た者の中から選ぶ時、判断に迷う例えに使われるのが「いずれがアヤメかカキツバタ」という言葉。どちらもアヤメ科の植物で、身近な仲間にハナショウブがある。生態的には、ハナショウブは水湿地に、アヤメは乾燥地に、カキツバタは池や沼などの水中から生え育っている事で区別できる。
 形では、ハナショウブは草丈が約1メートル位まで育ち、花が大きく、外花被片(実はガク)の付け根が黄色い事が特徴的だ。上に立っている内花被片が花弁である。葉先が花より上に伸びない事、葉脈の主脈が高くなっている事も区別のポイントになる。カキツバタは花より上に葉先が伸び、複数の葉脈が見える。アヤメは草丈が30センチ〜60センチとやや低く、葉の表面は平らで葉脈が見えない。
 ハナショウブはノハナショウブを原種に持ち、人の手により花があでやかに咲くように改良を加えられた園芸植物だ。三重県には国の天然記念物になっているノハナショウブの群生地がある。この地方の方言でドンドバナと呼ばれているが、ドンドとは田んぼに水を引く水路のことである。
 ハナショウブの鑑賞栽培の歴史は約800年前(室町時代)にまでさかのぼり、その品種改良が盛んであった地域によって「江戸種」、「肥後種」、「伊勢種」の三大系統に区別され、現在では500余種を数える。品種改良の先駆となったのは、江戸の旗本、松平定寛だ。自ら菖翁と名乗り、奥州安積沼原産のものから、生涯をかけて、約100余種の品種を作ったと言われる。各地の菖蒲園では6月上旬から下旬に開花時期を迎えるが、今年は冬が暖かく開花が早い。開花時期の菖蒲園に水が張られているのは、花を美しく際立たせるための演出だ。
 5月5日の端午の節句に香を楽しむ「菖蒲湯」に使うショウブは、サトイモ科に属し、ハナショウブとは別種。葉が日本刀の刃の形に似ているところから、古くは軒に吊して邪気を祓う厄除けに用いられていたようだ。花は淡黄色で小さく、観賞価値はない。ただ、万葉集などに詠まれているアヤメグサは、このサトイモ科のショウブの古名だ。
 アヤメ科の仲間にはグラジオラス属、クロッカス属、フリージア属等も含まれる。ハナショウブ、カキツバタ、アヤメは共にアイリス属に分類されている。アイリスとはギリシャ語で「虹」の事で、天界と地上を結ぶ使者と考えられていた女神「イーリス」から来ている。野山の花の集まりに、青色の衣裳をまとった少年が現れ、日が射して虹がかかった瞬間、少年のエメラルドの飾りが美しく輝いたという「虹の使者」のギリシャ神話も伝えられている。ジャーマン・アイリス、イングリッシュ・アイリス等、多くの仲間を持つ。水辺の湿地に野生、初夏に開花するキショウブは、明治30年頃に輸入されたヨーロッパ原産の帰化植物で、八重咲きや葉に紋の入った園芸種も流通している。