「モンシロチョウの交尾の不思議」
No41(2002年05月掲載)
 地球温暖化現象との関連が話題となったが、今年のサクラ前線は、例年より2週間も早く通り過ぎていってしまった。同様にモンシロチョウが羽化した時期を結ぶモンシロチョウ前線も、今年は早まりそうだ。
 モンシロチョウの卵は約2ミリ程度の黄色い円錐形で、産卵されてから4〜5日で黄色からダイダイ色に変化し、約1週間で幼虫がふ化する。幼虫は最初は黄色だが、好物のキャベツなどのアブラナ科の葉を食べるので、消化管に入った葉の色が体内から透けて見え、文字通りアオムシに変身する。幼虫は10日間で脱皮を5回繰り返し、サナギになる。越冬するサナギは褐色だが、春から夏のサナギは緑色だ。サナギは約1週間でチョウに羽化する。成虫の寿命は約10日間だ。関東から南では年に7〜8日間発生するが、北海道では年に2回くらいしか発生しない。
 10日の寿命の間に、交尾と産卵をするわけだが、その雄と雌との出会い方については、案外知られていなかった。雄は一度も交尾していない雌を見つける必要があるのだ。その外観からは、見分けることはほとんど不可能だ。ひとつは行動パターンにヒントがあった。雄は羽を休めているチョウがいると、近づいていく。そうすると休んでいるチョウは三種類の反応をする。一度受精した雌は、交尾を拒否するさかだちの姿勢をとる。雄であった場合は、はばたいて拒絶の信号を送る。交尾していない雌は静止して、訪れて来た雄の交尾を受け入れる。
 実験を重ねていくと、この行動パターンだけで識別しているのではないことが分かった。人間とモンシロチョウでは、見え方に差があったのだ。人間には同じ色に見える羽の色でも、モンシロチョウには違う色に見えるのだ。多くの昆虫類は赤色が見えないのに、人間には見えない紫外線の領域の色が識別できるのだ。人間の目が見える光(可視光線)の波長は、約400ナノメートル(ナノは10億分の1)〜7百数十ナノメートルの範囲だ。この7百数十ナノメートルの領域は、人間には赤色として、識別できるのだ。波長が短くなるにしたがって、ダイダイ色、黄色、緑色、青緑色、青色、スミレ色として感じる。スミレ色の波長が約400ナノメートルで、これより波長の短い光は、紫外線(紫外色)の領域になり、人間の目には見ることができない。昆虫が見える光の領域は、人間に比べて短い波長の方にずれているのだ。
 雌の羽には紫外色が含まれているのに対し、雄の羽には紫外色が含まれていないのだ。モンシロチョウの色の世界では、雄の羽は白色のままだが、紫外色を含む雌の羽は白色が黄色に変化して見えているのだ。飛びながらでも羽の色で雌雄を見分けられるのだ。モンシロチョウの雄は、雌の羽の紫外色に反応して交尾行動をとるように、遺伝的に仕組まれているのだ。