「山が荒れると増えるスギ花粉」
No38(2002年02月掲載)
 年々、花粉症で悩む方が増えている。一度、発症すると過敏になり、症状も重くなるから大変だ。花粉症の原因としてスギ花粉が有名になり、悪玉のように思う人さえいる。奈良県は「吉野スギ」で知られるように、日本有数のスギ産地で、桜井市には高級木材の市場もある。しかし、安価な輸入材におされ価格が下落、林業従事者の高齢化などの要因も重なり、最近は間伐などの保育作業も積極的に行われていないため、共倒れ寸前のスギが急増している。戦時中の資源不足のため、多くの山が伐採で丸坊主にされ、それを補うため、昭和30年代まで植林が盛んに行われた。役立つ樹木として一番よく植えられたのがスギで、樹齢が30年を越える頃から、花粉の量が多くなると言われている。
 スギは3〜4月に開花し、淡黄色の楕円形の雄花を咲かせる。雄花の花粉は風によって雌花へと運ばれ受粉する。スギ花粉が減少した頃、こんどはヒノキ花粉の飛散が増える。風による受粉は確立が低いため、大量の花粉を生産して空中に放出する。さらに、種としての寿命が危うくなると、種族保存のために幼樹でも花粉を多く付けるようになる。樹木が山が荒れていることを感じ、自らを守るために花粉を多く放出しているのだ。
 1個の花粉の大きさは1ミリの30分の1位で、とても肉眼では見えない。黄色い粉のように見えるのは、何万個かの花粉がかたまりを作っているからだ。小さいから、風に乗りやすく、その飛散距離は数十キロから百キロに及ぶ。近くに樹木が無くても、まず、開花季節には花粉が漂っていると思って間違いはない。花粉を顕微鏡で観察する手順を紹介しよう。白色ワセリンをスライドガラスに指か箸で塗って用意。それを窓のさんなど、雨のかからない所に24時間放置する。終わったら染色液を一滴加え、カバーグラスをかける。染色液は筆記用の赤インクを薄めたもので代用できる。大きさ、外形、模様などをスケッチし、飛散量を数えてみよう。花粉予報では1平方センチ当たり@4個以下が「少ない」A5〜19個が「やや多い」B20〜49個が「多い」C50個以上が「非常に多い」の4ランクに分けられている。花芽の形成が始まる前年夏の気象条件により、花粉の放出量が左右される。この時期に高温や乾燥が続くと花芽形成が促進され、低温や湿潤が続くと抑制される。正確な予測のためには1年を通じての空中花粉の観察が必要だ。一九九○年よりの日本気象協会の奈良県北部の花粉予測は、この記事を監修していただいている谷先生の観測データが元になっている。