「羽子板の羽根に
つかわれムクロジ」
No36(2001年12月掲載)
 黄色や赤など数えきれないほどの色彩で彩られる晩秋の奈良公園。その中でも意外と見過ごされているのがムクロジだ。高さ25メートル程にまで成長する落葉高木で、春日大社参道の脇に、直径1メートルを越す巨樹が2本ある。
 ムクロジでよく知られているのは、その種子が、お正月の女の子の代表的な遊びの羽根突きの羽根の頭に使われているということだ。ムクロジは漢字で「無患子」書き、「子どもが患うことが無いように」という願いが込められいる。羽根はトンボの形に似せて作られたという、言い伝えもある。病を運んでくる蚊を食べるトンボに似た羽根を空に舞わせて、無病息災を祈る儀式が遊びになって伝えられたというわけだ。
 ムクロジの果実は七五三の頃に黄色または黄褐色に熟し、基部に発達しない心皮がつく。その中に硬くて球形の黒い種子が入っている。ムクロジ科ムクロジ属に分類されているが、同じムクロジ科の仲間に中国果実のレイシ(ライチ)があるといえば、果実のイメージがつかみやすいかも知れない。レイシには不老不死の言い伝えもあるが、ムクロジの実にも、お釈迦様が「数珠の珠として使いなさい。」と言ったとも伝えられている。イヤリングなどのアクセサリーにも、和風テイストを演出するため、素敵に使われている。
 水に溶けて泡立つサポニン成分を果皮に含むところから、石鹸の代用として用いられていた。昭和三十年頃まで、木の洗濯板を使って、ムクロジの果皮で洗濯していた家庭もよく見かけた。学名はSapindus mukurossiと名付けられているが、Sapindusは「インドの石鹸」という意味だ。果皮を温水につけてストローで吹くとシャボン玉遊びも楽しめる。
 葉は長く5〜15センチでちょうどニワウルシやカラスザンショウのように一節毎に対になって互生(反対方向に伸びる)する。葉の形は縁に切れ込みの無い全縁である。6〜7月に枝先に穂状に黄緑色の花を咲かせる。また、雌雄同株で、雄花と雌花がある。秋も深まると葉が美しい黄色に染め上がる。