「草木染など、
とても役立つクサギ」
No35(2001年11月掲載)
 日本全土に分布し、雑木林の周辺部や川岸、崖など、陽当たりの良いところに生えている、クマツヅラ科に属する落葉低木のクサギ。葉や枝を傷つけると、ビタミン剤の化学臭のような独特の臭いを発するところから臭木の和名が付けられた。しかし、色々な用途に役立つ樹木であることを知っておいて欲しい。
 地方によっては「クサギの木が一本あればおかずに困らない」と言われるほど、若芽は天ぷらに、葉は水にさらすと臭いが消え、佃煮や和え物にするとおいしい。臭いのため葉に虫が付くこともほとんどない。低木と言っても2〜3メートルには成長するから、おかずとして食べごたえもあるだろう。
 8〜9月には4本の雄しべと1本の雌しべが、花の外に長く突出した、直径2〜3センチの白く美しい花を咲かせる。花は甘い良い香りがし、蜜の量も豊富で、夏のアゲハチョウ類の重要な蜜源になっている。一つの花の開花時期は3日に過ぎないが、次々と1本の花で1ヶ月以上も咲き続ける。花が咲き始めるとまず雄しべが伸びて蜜を吸いに来たチョウに花粉を付着させ、翌日には雌しべを延ばし、チョウの体についた花粉で受精する。3日目になると雄しべや花びらもしおれ始め、雌しべだけが突き出しているように見える。
 10月〜11月にかけて、羽子板の羽根の形に似た果実を結ぶ。頭の部分は直径6〜7ミリの青色の実で、羽根の部分はワインカラーで、5裂に平らに分かれた萼(がく)だ。花と見間違うほど鮮やかで目立つ。実は鳥に食べられ、消化されず排出された種子は、休眠状態で森の土壌の中に蓄積される。山火事や樹木の伐採などで森が破壊されると、真っ先に発芽し成長を始めるので、先駆植物と呼ばれている。
 青色の実は草木染めに用いられる。少しの水を加えて実を炊き、そこに絹のハンカチなどを入れると美しい赤紫色に染まる。他の植物で草木染めをする時は、なんらかの媒染剤が必要だが、このクサギの実だけは、直接に染まるのが特徴だ。クサギの漢名は臭梧桐(しゅうごとう)で、古い書物にも色々な別名が見られる。昔はクサギも、下駄や炭の材料として用いられていたようだ。
 Clerodendrun trichotomumというのがクサギの属名だか、訳すると「運命の木」という意味だ。この属に分類する仲間には、薬用として優れたものと、有毒のものとがあるので名付けられたという。クサギは前者の薬用としても色々な有効性を持っている。8月〜10月、葉の繁っている頃に小枝ごと刈り取り、水洗いして日干しで乾燥させ、煎じて服用するとリウマチや高血圧症に効果があるといわれる。また、腫れ物や痔の場合は煎じた液で患部を洗う。実際、血圧の降圧効果や鎮痛作用のあるクレロデンドリンがクサギの茎葉から抽出されている。