「葉緑素を持たない
ギンリョウソウ」
No32 (2001年08月掲載)
 落ち葉などがたまり、やや湿った暗い木陰など、太陽光の当たらないところでも成育するギンリョウソウ。イチヤクソウ科に属し、根以外は半透明で、ロウ細工のような純白色をし、その形がかま首をもたげた竜の姿に似ているところから「銀竜草」の名があてられた。全国各地に分布し、千島列島、樺太、朝鮮半島、中国、台湾、さらにインドシナ、ヒマラヤでも観察されている。
 葉緑素を持たないため、光合成によって自ら養分を作ることができないので、森林などの腐植土に根を張り、入り込んだ菌類から栄養分やビタミン類を吸収している。こうした植物は菌根植物と呼ばれ、腐った生物の死体や排泄物を栄養源にする腐生植物の一種に分類されている。
 高さは8〜20センチにも達し、薄暗い場所に白い姿を目立たせるところから「ユウレイ茸」の別名も持ち、キセル、トックリなどと呼んでいる地方もある。また、「スイショウラン」とも呼ばれているが、呼び方によって、その印象が変わるのもおもしろい。大台ケ原山の「一本タタラの魔物」伝説は、ギンリョウソウではないか、ともいわれている。
 根が密にからまって固まりになった塊茎から、一〜数本の太い地上茎を直立させる。葉も半透明の白色で鱗のように茎に付いているる茎は分岐せずに、その先端に花を一個つける。開花時期は4月〜8月、奈良盆地の平野部では5月ごろだ。花の先に紫色を帯びた雌しべと黄色い雄しべが顔をのぞかせる。また、白い肌から透けて見える様は可憐だ。つぼみや開花したときの花は横を向いているが、果実になると上向きになる。この花の部分が龍の頭に例えられているわけだ。果実は白く球形で、水分を多く含み、茎が倒れるとつぶれ、中の種子が散らばる。
 ギンリョウソウ亜科には10属15種が確認されている。しかし、2属を除いて他は、北アメリカのみに分布している。日本でもギンリョソウ属とシャクジョウソウ(錫杖草)属の2属が観察されている。シャクジョウソウはその形が仏教用具の錫杖に似ているところから名付けられ、やはり腐生植物に属している。1938年に、それまでギンリョソウの仲間と思われていたギンリョソウモドキが、シャクジョウ属に分類された。春から秋に開花し、熟すとみずみずしく丸くふくらむものをマルミノギンリョソウといい、秋に開花し熟すと乾いて上部から種を飛ばすものをアキノギンリョウソウと呼んでいる。
 群生してはえているので、目さえ慣れてくれば案外見つけやすい。でも、乾燥したり傷つけたりすると数十分内に黒くなるので、もし、この花を見かけても絶対に採取せず、その神秘的な姿を、そっと目やカメラに収めて楽しむことをお薦めしたい。