「トンボの横綱オニヤンマで水質判定」
No31 (2001年07月掲載)
 ダイオキシンやオゾンホールなど、さほどエコロジーに関心の無い人でも、自然環境には興味をひかれてしまう。誰にでも簡単にできる環境チェックのひとつにリバー・ウォッチングがある。そこにすむ生物の種類を調べ、その水質の清濁度を確かめるのだ。トンボの幼虫は子どもたちにヤゴと呼ばれ人気があるが、水質を知る指標生物としては、あまり取り上げられていない。けっこう、清濁度によってすむ種が決まっているので、ぜひリバーウォッチングにも活かしたいものだ。
 トンボの幼虫は流水(河川・小川)か、止水(湖沼・池)かで、おおかた生息する種が決まってくる。もっとも、流水、止水を問わず、幼虫が見つかる種もあるが。
 今回は流水域に幼虫が生息するトンボを紹介しよう。
▼きれいな水(BOD5M/R未満)ミヤマカワトンボ・ニシカワトンボ・ムカシトンボ・オジロサナエ・ヒメクロサナエ・ミルンヤンマ
▼少し汚れた水(BOD5M/R以上BOD10M/R未満)ハグロトンボ・オオカワトンボ・ヤマサナエ・ダビトサナエ・アオサナエ・コオニヤンマ・オニヤンマ・コシボソヤンマ。コヤマトンボ
▼汚れた水(BOD10M/R以上BOD20M/R未満)河川の流れのよどんだ止水域や岸よりの草の根元にクロイトトンボ・シオカラトンボ・ウスバキトンボなどが見られる。
▼大変汚れた水(BOD20M/R以上)と判断された流水域では、トンボの幼虫は見られない。
 トンボの横綱格といえば、日本でもっとも大きなオニヤンマを思い浮かべる。日本ではオニヤンマ科は二属四種(亜種を含めると六種)が確認されている。ただし、奈良県下で見られるのはオニヤンマだけだ。成虫の腹長はオスで59〜76mm、メスは産卵器官の先端までを含み75〜86mmだ。大きく成熟すると頭部の複眼は、光沢の強い深緑色へと美しく変身する。
 成熟したオスは川の一定場所を縄張りに定め、流れの数十cm上を往復飛翔し、メスを見つけたら斜め下方向からこっそりと近づく。羽ばたきながら静止し(ホバリング)、間合いを確かめ、猛スピードで突進し、空中で捕え連結する。移精の後、樹木の枝などで交尾態となって交尾する。その時間は2〜3時間におよぶこともある。メスは、浅くて細い流れの上でホバリングした後、突っ立った姿勢のままでストンと腹の先から突き出ている生殖弁を砂泥底に突き立てて産卵する。すぐに飛び立ち、この産卵行為を繰り返す。
 卵は一ヶ月くらいで孵化し、幼虫(ヤゴ)は5年くらいで終齢幼虫になる。ある川でオニヤンマの5年生が発見されたら、5年間は干上がったり、強い農薬などの毒物が流されたこともなく、川底が安定した状態であったことが証明されたことになる。このように、ヤゴから過去にさかのぼって河川環境が判定できるのだ。

BOD(生物化学的酸素要求量)水中の有機物が微生物の働きによって分解されるときに消費される酸素の量で、河川の汚濁度を測る代表的な指標。水質汚濁法に基づく排出基準に用いられている。