「ギヤマンと一緒に
渡来したツメクサたち」
No29(2001年05月掲載)
 子供の頃競い合って「四つ葉のクローバー」を探した記憶を持っている方は多いはず。女性なら髪飾りや首輪を編んだ思い出があるかもしれません。クローバの和名はシロツメクサ。その仲間にムラサキツメクサがある。共に牧草としてヨーロッパから明治維新頃に輸入され、渡来植物として全国で野生化した。
 日本人との出会いはもう少し時代をさかのぼる。弘化三年(1846)にオランダより献上されたギヤマン(ガラスの器)が破損しないように、クッション材としてシロツメクサの乾草が詰められていた。そこから白詰草の和名が付けられた。他にも和蘭蓮華(おらんだれんげ)、和蘭馬肥(おらんだうまごやし)、三葉花(みつばはな)などとも呼ばれていた。
 シロツメクサに対し、その花の色の違いからムラサキツメクサの名が付いた。赤色やピンクの花もあり赤詰草の別名も持つ。まれにだが白色の花のムラサキツメクサもあり、雪花詰草と呼ばれている。
 花の色以外でも、よく観察すればシロツメクサとムラサキツメクサを見分けることは容易だ。シロツメクサがジュウタンのようにべたっと伸びているのに対し、ムラサキツメクサは斜めや直立して20センチから60センチの茎が伸びている。だから群生するとコンモリとしたはえ方になる。さらに、シロツメクサがひょろっとした20センチ位の花柄(かへい)の先に花を付けているのに対し、ムラサキツメクサは花柄が短いので、花の下にすぐ葉があり、花が葉に囲まれているように見える。
 私たちが一つの花と思っているのは、たくさんの花が集合して出来上がった花序(かじょ)。だから、一つ一つの花は球状ではなく、蝶の形に似ている。
 どちらもマメ科の植物だ。レンゲの項で触れたように、根に付く「根粒バクテリア」と共生することにより、大気中の窒素を取り入れ、たんぱく質の基になるアミノ酸を合成、豊富なたんぱく質をたくわえる。この栄養素が、牧草として優秀な特質となっているのだ。
 たんぱく質以外にもタンニンやフラボノールなどの成分も含んでいるので、ヨーロッパではつぼみや花穂のまま採取して日干しにし、風邪や痛風の民間療法として服用されていた。
 ムラサキツメクサの伸びはじめの柔らかい茎や葉を選んで摘むと食用になる。なるべく早く塩ゆでにし、冷水に入れてから水を切り、甘く煮たり、バター炒めにする。花とつぼみは、少量の酢を入れた熱湯をくぐらせ、スープの浮身や三杯酢で楽しむ。花は、加熱しても色の変化がなく、型くずれもしないので、彩りも楽しめる。また、花、つぼみ、葉を一緒に生のまま天ぷらの衣にまぜ、かき揚げにすることもできる。身近な植物だけに、一度じっくりと観察してみるのもいいものだ。