「カンサイタンポポ セイヨウタンポポ」
No28 (2001年04月掲載)
 冬枯れた景色の中から雑草たちが芽吹き始め、日増しに育っていく春。その中の黄色い花の多くはセイヨウタンポポだ。町中の駐車場の隅や、アスファルトのすきまなど、少々荒れた場所でも元気よく花を咲かせる。タンポポといえば、ヨーロッパ原産の渡来植物であるこのセイヨウタンポポ(以下セイヨウ)が最もポピュラーになってしまい、在来種であるカンサイタンポポ(以下カンサイ)のほうが少なくなってきている。奈良市内では両方のタンポポが見られるが、セイヨウは町中に見られ、カンサイは自然のままの草地や農地に多く、環境悪化に敏感なので、環境指標生物になっている。その見分けかたは簡単。花を見て、総包の外片が上向きならばカンサイ、下にめくれるように垂れていればセイヨウ。実際にタンポポを見かけたら確かめてみれば、ほとんどの種の総包が垂れているのがわかるだろう。またカンサイのほうが小ぶりで、花茎も細い。
 さて、セイヨウが増えてしまうのはなぜだろう。それはカンサイと比べて一つの株に咲く花頭の数や、一つの花頭あたりの実の個数が圧倒的に多いこと。また、カンサイが春にしか咲かないのに対し、ほぼ一年中開花して種子をつけること。「そういえば、このごろは春に限らずタンポポを見かける」と気づく人もあるだろう。しかもその種子は、カンサイが花粉を運んでくれる昆虫がいないとできないのに対し、セイヨウは昆虫に頼らずとも花粉なしで自己結実ができる。かくして、どんどん繁殖して種をとばすわけだ。産地の乾燥しがちな土地条件と都市部のそれとが似ていることもあるだろう。
 やっかいなことに、最近では「一見セイヨウ、実は在来種との雑種」というケースが増えている。セイヨウの大部分の花粉は発芽能力がないが、中には正常に発芽するものもあり、そんな花粉が在来種の雌しべについてしまうためらしい。その違いは葉などからの酵素タンパク質を抽出してみないと区別できない。大阪や愛知では、セイヨウタンポポと思われる種を調べたところ、ほとんどが雑種だったという調査結果も報告されている。奈良県の実情はどうだろう。調べてみる必要がありそうだ。
 どれもかわいいタンポポには違いないが、できるなら生粋のカンサイタンポポが健在でいられる環境を残していきたいものだ。